むなしさ 中原中也『在りし日の歌』より

むなしさ

臘祭ろうさいの夜の ちまたちて
心臓はも 条網にから
あぶらぎる 胸乳むなちあら
よすがなき われは戯女たわれめ

せつなきに 泣きも得せずて
この日頃 闇をはらめり
遠き空 線条に鳴る
海峡岸 冬の暁風

白薔薇の 造化の花瓣かべん
凍てつきて 心もあらず
明けき日の 乙女の集い
それらみな ふるのわが友

偏菱形へんりょうけい聚接面しゅうせつめんそも
胡弓こきゅうの音 つづきてきこゆ

 

注釈

臘祭(ろうさい)

陰暦12月に行われた冬の祭
猟の獲物を先祖の霊にささげる

偏菱形(へんりょうけい)

隣接する辺の長さが等しくない平行四辺形
台形のこと

聚接面(しゅうせつめん)

台形が集って、接している面のことだと考えられる