中原中也

汚れつちまつた悲しみに 中原中也

汚れっちまった悲しみに 今日も小雪の降りかかる 汚れっちまった悲しみに 今日も風さへ吹きすぎる 汚れっちまった悲しみは たとへば狐の革裘ごろも 汚れっちまった悲しみは 小雪のかかってちぢこまる 汚れっちまった悲しみは なにのぞむなくねがうな...
中原中也

一つのメルヘン 中原中也

秋の夜よは、はるかの彼方かなたに、 小石ばかりの、河原があって、 それに陽は、さらさらと さらさらと射しているのでありました。 陽といっても、まるで硅石けいせきか何かのようで、 非常な個体の粉末のようで、 さればこそ、さらさらと かすかな音...
中原中也

幼き恋の回顧 中原中也

幼き恋は 寸燐マッチの軸木じくぎ 燃えてしまえば あるまいものを 寝覚ねざめの囁ささやきは 燃えた燐りんだった また燃える時が ありましょうか アルコールのような夕暮に 二人は再びあいました―― 圧搾あっさく酸素でもてている 恋とはどんなも...
中原中也

夜更の雨 中原中也『在りし日の歌』より

夜更よふけの雨 ―ヴェルレーヌの面影― 雨は 今宵こよいも 昔 ながらに、 昔 ながらの 唄うたを うたってる。 だらだら だらだら しつこい 程だ。 と、見るヴェル氏の あの図体ずうたいが、 倉庫の 間の 路次ろじを ゆくのだ。 倉庫の ...
中原中也

むなしさ 中原中也『在りし日の歌』より

むなしさ 臘祭ろうさいの夜の 巷ちまたに堕おちて 心臓はも 条網に絡からみ 脂あぶらぎる 胸乳むなちも露あらわ よすがなき われは戯女たわれめ せつなきに 泣きも得せずて この日頃 闇を孕はらめり 遠き空 線条に鳴る 海峡岸 冬の暁風 白薔...
中原中也

含羞(はぢらひ) 中原中也『在りし日の歌』より

含羞はぢらひ ー在りし日の歌ー なにゆえに こころかくは羞はじらう 秋 風白き日の山かげなりき 椎しいの枯葉の落窪に 幹々は いやにおとなびたちいたり 枝々の 拱くみあはすあたりかなしげの 空は死児等の亡霊にみち まばたきぬ おりしもかなた...