含羞(はぢらひ) 中原中也『在りし日の歌』より

含羞はぢらひ

ー在りし日の歌ー

 

なにゆえに こころかくはじらう
秋 風白き日の山かげなりき
しいの枯葉の落窪に
幹々は いやにおとなびたちいたり

枝々の みあはすあたりかなしげの
空は死児等の亡霊にみち まばたきぬ
おりしもかなた野のうえは
あすとらかんのあわいう 古代の象の夢なりき

椎の枯葉の落窪に
幹々は いやにおとなびたちいたり
その日 その幹のひま むつみし瞳
姉らしき色 きみはありにし

その日 その幹の隙 睦みし瞳
姉らしき色 きみはありにし
ああ! 過ぎし日の ほの燃えあざやぐおりおりは
わが心 なにゆえに なにゆえにかくは羞ぢらう……

 

注釈

あすとらかん

生まれたばかりの子羊の毛皮のこと
ロシアのアストラハン地方で産出したことからこう呼ばれる